インスタレーション『ABITA』@JINNAN HOUSE
Artist talk Ⅲ_ 「私」は空っぽの器。水や木や雲に語りかけ、撮り続ける
【聞き手=安藤誠/LAND FES 2022年2月15日、渋谷JINNAN HOUSEにて】
---- では最後に麻旅子さんに、奥野さんとは最初どのような関わりだったのかお聞きします。
三浦 最初はモーガン(・フィッシャー)といっしょにやった公演の写真。
---- あれ、真っ暗でしたよね。撮影、難しかったんじゃないですか。
三浦 私はああいうのが大好きだし、得意なんです。
奥野 プロジェクタだけの光で、全部ヌードでやったんで。2~3mくらいしか奥行きがなくてお客さん10人くらいで。真っ暗で、いい意味で本当に狭かった。
三浦 この間、改めて写真を見て良いな~と思いました。
---- それは何で知ったんですか。
三浦 モーガンさんのSNSかな。彼がTHE BOOM のサポートをしていた時に話す機会があって。その影響でインドのプーナにも行きました。私はいつもすることが突発的なので……ピンときたんだと思います。その後何度か奥野さんの公演を拝見したり撮らせてもらったりして、気にはなってたけど、そんなに密ではなかった。それが去年沼津で一緒になって。
奥野 そうですね。
三浦 すごく共通するところがあって、私は違和感はまったくない。
---- 沼津のときは、ある種とらえどころのない空間で、また別種の難しさがあったと思います。。
三浦 何が起こるかわからないしね。映像も撮ってるからどこにいていいのかも……。私は何が起こるかわからない現場で撮る事が多いんですけど、何が起こってもそれに対処できる自分がいればいいだけなので。いつもと一緒の感覚だったかな。
奥野 麻旅子さんは滝を撮るし、ライブも撮る。
三浦 仕事としてはいつも音楽系の写真を撮ってます。
岡本 あ、そうなんですか。
三浦 ライブとか、ダンスとか、滝。
---- ライブと滝って、真逆な感じもしますけど。
三浦 動き続けているものだから、私にとっては一緒。
奥野 (聞きながら)これが、麻旅子さんに頼もうと思った理由なんです。ジャンルがバラバラのものを現象として捉えてる。絶対なにかあるなと。
三浦 子供のころから普通に植物や木、石、雲や月と喋っていたし。木とか撮るときに、人格というか、なんだろうな……同等のものとして喋りながら 撮ってるし、普通のことなんです。
奥野 それが声をかけさせてもらった理由なんです。ライブを撮ってて滝を撮ってて、ダンスを撮ってるならきっとこうだろうなと。これはなにかあるぞって。滝の写真はやっぱり、すごく印象的で、個人的には。一緒にやるのは今回が初めてです。
三浦 私はいつも依頼を受けて写真を撮ってる立場なので、ある意味受け身なんですね。それもあって、今皆さんの話しを聞いていて、「空っぽの器になりたい」と思っていた事を思い出しました。だから……自分のものとして何かを作るのは初めてなので、よい体験になっています。
奥野 私は写真はできないので、お任せしてやってもらい、写真表現とクロスしていくところを探っていく。でも強いんですよ、麻旅子さんの写真は。それを前提として、また次のクロスを楽しめたら面白そうだなと思っています。
三浦 プリントをきれいに展示したりする感覚があんまりなくて、むしろ写真を繋いでスライドショーを制作するのが面白くて。その真骨頂を試せるのが楽しみかな。
---- 額縁に入れてギャラリーに飾ることへの違和感があるわけですか。
三浦 違和感というか、私の中でその感覚は薄い。もともとコンサートとかライブに興味があって、それに関わる仕事をしたいなと思ってたので、写真家になるぞ!みたいな気持ちもあまりなかった。たまたまライブの近くにいて、カメラを持って撮っていて、ご縁があって続いててありがたいなと。だからむしろこういうのがしっくりくる。
奥野 麻旅子さんのその感覚が観たかったんですよ。形にすること、あえてしてないことに、個人的にすごく興味があって。
---- お話を聞いていると皆さん、たとえばダンサーであること、写真家であること自体が目的じゃない、そういう方たちばかりですよね。
奥野 似たもの揃いみたいで、ちょっと怖いです、私(全員笑)。
---- それぞれ表現は違うけど、みんな同じことを語られているような気がします。
奥野 みんな同じ意見というのが怖くて、あえて違うことをしちゃいそう。意図的にならないように、作品以外の日常や人間関係でもあえて違和感を投げてみたり。それは対モノでもあると思っていて。より深く中身を探っていくために。
岡本 確かにそれは疑問に思ったり、考えたりすることもあります。
奥野 今回、インスタレーションという形式についても考えていて。1/10秒という時間の単位や、ものごとの中身と向き合う、それって舞台もインスタレーションも関係ないと昔からずっと思ってて、むしろ観客が滞在時間・場所・角度を選べるインスタレーションのほうが作品と観客が濃い質感に出会う確率は高いんじゃないかとも考えたりしています。あと今回ワンオーダー制なので、カフェのおいしいごはんや緑茶と一緒にいてくださいと。2500円、3000円払って舞台1時間観るのとあまり変わらない時間かなと。力まず自然に、観客の日常や、体の中に不意に入ってくる作品、そんなアプローチでもやってみたい。いい悪いはわからないけど、私はそういうものも個人的には観てみたいですね。
---- 麻旅子さんは先程器になりたいとおっしゃいましたが、ここにある写真を観ていると、撮られてるモノ自体が自分自身を撮ってるようも思えます。モノ自身が、撮られたいと思って自分を撮っているような感覚というか。
岡本 確かに。
奥野 ほんとそうですね。自分が麻旅子さんの写真を強いと言うのはそういう感じ。
岡本 わかります。
三浦 私が撮ってるわけじゃないんで(笑)。
---- モノ自体が撮ってる。
奥野 矢と弓って、当たりに来るっていうじゃない。打ちに行くんじゃなくて。
岡本 しかも心地よく撮られてる感じというか。
---- 心地よい感じがしますよね。
岡本 それってすごいことですよね。
奥野 映像は映像で違う質感が見えてくる。コンセプトを持って沼津に臨んだあとで出てきた写真は、強かったですね。私が想像していたモノの世界。
三浦 逆にちゃんと勉強してまっすぐ撮るみたいなことが、私はどうしてもできない。
---- 音楽をいつも撮っているのに—あるいは撮っているからかもしれませんが、この沼津の一連の写真はすごく静謐な感じが印象的です。
奥野 ライブが圧倒的に多いわけじゃないですか、麻旅子さんって。その思考回路が未知。
三浦 でもライブ撮ってる以外の毎日はこんなものですよ。
奥野 そういうことなんですね。日常でシャッターを押してる感じ。
三浦 水とか撮るのが当たり前なんで。空も毎日撮ってる。光があってもなくても、ただ美しいから。
---- この空間に麻旅子さんの作品が展示されたとき、そこからどんな音が聞こえてくるのか興味があります。何が聞こえてきて、何が聞こえてこないのか。
奥野 絶対何かが聞こえてきそうですね。
三浦 何かを形にするのって、難しいですね。きれいになっちゃうし、当たり前になっちゃうし。どんどん出来てはいくんだけど、だんだんつまんなくなっていく、ということもあるし。
奥野 でも今回、この麻旅子さんの強い写真が、私たちがずっとやってるプロセスの行為の一瞬を捉える、そこが大きなポイントな気がするんですよ。今日みんなで改めてギャラリーを下見して一緒の空間をシェアすることで、それが起こると思うとすごくドキッとした。毎回の行為が「これで完結!」みたいにならない、そんな気持ちになれたらいいなって思っています。
聞き手|安藤誠
フリーランサーとして広告・イベントの企画・制作を手掛けるほか、音楽、映画などの分野で執筆。街をツアーしながらダンサーと音楽家の即興セッションを楽しむイベント『LAND FES』(https://landfes.com)ディレクター。